ラーニングナース修了にあたりの所感、そしてこれから

                                          澤田 仁美

 去年の4月1日、この研修室で皆さんと初めて顔を合わせた時のことを今でもよく覚えています。私も緊張していましたが、周りの緊張も伝わってきました。

 ラーニングナースを希望して面接の前に小論文を提出し、同時にラーニングナースとして望むこととして「自らの学習内容について」の希望も提出しました。初心に返り今年に入り何度も読み返すことがありました。その内容は、たったB5版のレポート用紙に自分の思いつくまま書いたもので、そのときはすごくこのことが学びたい、必要があると思って必死になって書いたと思うのですが、今思えばちっとも具体的でなく、あいまいな内容でした。この場で、自分も一年の経過を振り返り自己評価を伝えたいのですが、同時に皆さんにも評価してもらいたいと思い、そのときの文章を読み上げたいと思います。

 <学習内容について>

 臨床経験が3年7ヶ月と少ないため、「医療技術や知識について一から再確認し、確実に身につけて行きたい」と思っています。また、今まで自己学習では解消できなかった「カウンセリング/コミュニケーション技法」や「迅速な問題対処能力」や「スムーズな他機関との連携法」などなど、実践を通してご指導いただければと思います。また、今まで組織の一員としての自覚が欠如していた「運営や管理」などの感覚を身につけたいと考えております。
このニーズを提出した時の私の気持ちは、病院を離れて在宅の場で4年働く中、介護保険がスタートし、看護の役割を改めて考える機会がありました。また、経営や運営などの今まで病院勤務時代に考えもしなかった要素も組織の一員として身近に感じ、そしてナースとしては、学んできたこと、経験してきたことの積み重ねができていない事に気がつき、看護の専門家になりたいとただただ気持ちばかりが先走っており、今までの自分を分析する余裕などなく、具体的に何を学び取りたいかというところまで、意識がなかったように思います。そして、自発的に行動しているつもりでしたが、整った教育システムに自分が身を置くことにより、教えてもらえる、一から学びなおせると思っていました。自分のつたない学習ニーズからそれでも想像以上の学びができたことを先ほど読み上げたそれぞれの学習ニーズをどのように学んだかお伝えしたいと思います。

 まず、「医療技術や知識について一から再確認し、確実に身につけて行きたい」ということについては、当然働き始めるのだから看護の基礎・基本の再確認を最初に系統的に学生時代の授業のように教えてもらえるのだと思っていました。しかし、最初のカリキュラムの説明の中で、「プロを目指す中では国家資格を持つナースとして、ここではすでにできている出発点として考えますよ。」という説明がありました。そのときは自分では気づいていませんでしたが、あとで考えると少なからず経験を踏んできており学生レベルではなくできていると思う反面、ある部分ではとても自信のないと思う気持ちがありました。そして、実践の場に出る中でより自信のない部分が不安に変わっていきました。しかし、一向に自分が想像したように教えてはもらえません。実際に看護の基礎・基本を個別学習の時間を取っていただいたのは、仕上げに時期になる今年の3月に入ってからでした。どうしてこの時期に入ってから学ぶ機会を持ったのか、実際に学んでみてよくわかりました。
去年の11月、自分たちで一語・一句用語の意味を調べながら、看護とはを考える機会を持ちました。学生時代の基礎看護学・基礎看護技術などの本を読み返し、学生時代に感じないことを感じ、看護の基礎・基本をわかっているようで結構あいまいな自分たちに気づきました。何のために基礎・基本を学生時代に学ぶのか、考えました。やり方を上手になりたい、一人前に働けるようになりたいという気持ちが強く、学んだ理論が実践とは結びつきづらくなっていたように思います。3月初旬の学びの中で、技術の基礎・基本は確実に安全・安楽に無駄なく行える方法が必要であることを学ぶのですが、その前に看護は必ず人間という対象がいて、その対象は十人十色いろいろな人がいる。その対象には心があり、その人を取り巻く家族にも十人十色の心がある。そして、看護を行う私も一人の人間としての心があり、相手と向き合い近づこうとする努力がまず必要である。そして、自分の5感をフルに活用して、相手の五感に働きかける。基礎看護技術としては的確に行える方法があり、その中に自分の経験を生かして、いかにその経験を活用し応用・工夫がしてゆけるか、この創造性を加えてゆけることがプロの看護であると実感しました。そして、この学びは一年かけて学習してきたこと、実践し経験してきたことがあった上で、初めて理解が深まり、想像していた与えられる講義ではなく、これから積み重ねができる学び方、経験の積み方を教えてもらい、いかにその努力をしてゆけるかが今後の課題です。

 次に「カウンセリング・コミュニケーション技法」について、これも臨床心理士の村松代表に理論から教えてもらえると思っていました。しかし、これは最初に代表とした「3つの約束」に集約されていることを今感じています。よく、「患者の心を開くために」という言葉が使われますが、患者の心はおろか自分の心の開き方を私は知りませんでした。相手の気持ちを引き出そうと躍起になっていても、自分はどうなの?とそこに気づくことができたのは、繰り返しこの約束の意味を考えながら学習をし、本当の意味が徐々に理解できるようになり、そして継続して自分とこの約束をしつづけることが重要だと感じています。今の自分を知って向き合い、そしてそこから周囲が見渡せ、自分の行動を変えてゆくことが重要なことで、この基盤があってこそ理論も技法も生きてくることだと感じています。私は、構えが強く、強がって自分をさらけ出せない、しかし実はとても弱くてもろいところがある自分を認め、ネガティブな部分を意識して変えてゆけるよう行動し、失敗しても失敗から学ぶ姿勢で進んで行くことが今後の課題です。

 次に「迅速な問題対処能力」については,計画的に物事を進めたい性格の私は予想外の展開に弱く、いつも振り返るとあの時こうすればよかったこう言えばよかったと思うのですが、また同じようなことを繰り返すことが多いと感じていました。それがなぜかラーニングになって気づきました。それは問題解決プロセスをしっかりたどっていなかったのだと感じました。私の場合、問題と感じると、どうして?とまずあいまいに悩んでしまい立ち止まってしまう傾向がありました。それは本当に問題なのか?問題だとしたらなぜなのか?と分析を進め、問題が明らかになってきて、そしてその問題はどういう状況になったら解決するのか?解決するにはどうしたらよいのか?と目標を挙げ、解決する方策を考える、これが問題解決のプロセスだと思います。最初はなかなかイメージできませんでしたが、日常生活でも無意識にこのプロセスを踏んでいるのよと代表によく言われました。問題をややこしくしてしまう自分の要因を考えると、まず問題を大きくあいまいに捉えすぎる傾向にあること、また一応問題を解決させるために目標を挙げるが具体的でなかったり、高い難しい目標を挙げてしまうこと、そしてそれが困難なため方策がうまくとれず悩んでしまうといったことがあると思います。ラーニングの学びの中で、この自分のうまくふめないプロセスを、最初はアドバイザーが踏めるように導いてくれ、そしてラーニング同士でも悩んでいると「どうしてそう思うの?」とお互いに問いかけ、その中で解決できていくことが多くあったと思います。ケース分析論では、まさにその問題解決プロセスを自分以外の人を通し、さまざまなケースの中で類似したことを生かしてゆけるような学びができたと思います。これからは、仲間と学んだことを自問自答しながら自分で確認しながら進んでゆきたいと思っています。

 次に、「スムーズな他機関との連携」について、これは他機関ということのみでなく他者とかかわる上での基本的な姿勢を学びました。確かに在宅の場では、物理的に離れている人・顔の見えない人とコミュニケーシンを図らなければならないことが多く、またシステムでは活動の機能上、スタッフ同士も顔を直接合わせて時間をとることが少なく、その難しさを感じました。しかし、変えられない現実の状況の中で、自分が心がけ努力することはいくらでもできると思いました。それは、相手の立場・気持ちになって、自分がどのように行動するかということだと思います。先日ケース分析の時間に代表が医師に電話をかけ、ナースとしての意見や姿勢を伝えるという場面に同席しました。相手の立場を十分に理解し認めているということを相手に感じられるように伝えながらも、何を自分の立場で伝えたいのか、わかりやすい言葉で率直に自分の経験を最大限生かして伝えていました。その中で、相手の思い変化やお互いに歩み寄ってゆくのをその場で感じました。そして、電話の相手の言葉が聞こえなくても、もしその場に患者や家族がいても明らかにわかる内容だったのです。そのような場面を通し感じたことは、常に意識して自分で繰り返し訓練してゆくことの大切さで、今後その努力をしてゆきたいと思います。

 また、昨日受け持ちの方の引継ぐための最後の同行訪問をした際の家族からの言葉があまりにも印象的だったのでお話します。「私は、永さんの本を読んで父のことを任せてみたいと思ったんです。でも他の家族はあまり同意しない中、闇雲に住所から電話帳を探し、あてずっぽにさがした一番最初の電話番号にいちかばちかでかけたところ、最初に電話に出たのが稲留さんでした。稲留さんには一度電話で話したことしかないけれど、本当に感謝しているんです。私の思いをうまく引き出してくれ、必要なことを整理して伝えてくださって、そして最後に父の名前を聞いてくれて『すてきなお名前ですね』と誉めてくれたんですよ。それがすごくうれしくって、自分がいろいろ悩んでいたことがこれからの進む道に自信が持て、とてもありがたかったんです。そんなに長く話さなかったけれどあの一本の電話で本当に救われました。そして、来所相談に行ったとき、迎えてくれた仲野さんが第一声『○○さんですね』と私の名前をまず確認してくれたんです。稲留さんからきちんと話が伝わっているなあと初めて会うのにとても安心したんです。それでお願いすることにしたんですよ。」という言葉でした。受け持ちになってはじめて聞くエピソードでしたが、ラーニングの窓口としての稲留さんとの関わりや姿勢から学ぶことを改めて振り返り、そして内部の連携、情報交流の大切さを家族の声を通して学びました。

 次に、組織の「運営・管理の感覚を身に付けたい」について、最初は、会社や組織を動かすとはというように、すごく大きなことを考えていましたが、在宅看護研究センターの目的・目標をもとにした今までの活動の歩みを知ったときに、一歩一歩切り開いて地固めをしてきたことを感じました。特にこのことを学ぶ機会となったのは、公開ワークショップでした。自分たちで企画・運営・広報・マーケティングを行う中で、最初は気負いや戸惑いがありましたが、継続して実施してゆきいろいろな要素を学ぶことができました。自分たちのチームワークやお互いの持ち味を出し合うこと、また外部の人から刺激をもらうこと、組織としての力を高める上で必要なこと、また自分試しにもなりました。運営・管理と大きなこととして捉えるより、自らが組織の一員としての、社会人としての常識、職業人としての姿勢の基本的なことを学ぶ機会にもなりました。これらの経験を生かして、基本的な姿勢を忘れずに今後歩んでいきたいと思います。

 このように自分の希望に添って学んできたことをお伝えしましたが、皆さんの評価はいかがでしょうか。
この一年で一番大きかったのは、親や家族以外に自分のことを本気で考え伝えてくれる方、仲間ができたことです。そして、初めての試みであるラーニング制の導入に戸惑いながらも、常に見守り支えてくれたシステムの方々に本当に感謝しています。これからも、自立したナースをめざし一年間学んだこと経験したことを生かせるように努力してゆきたいと思っています。本当にありがとうございました。