第5回公開ワークショップ 報告 「家に帰りたい」を支えるためには… 〜在宅療養を支えたい想いと、立ちはだかる壁について〜 |
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ラーニングナース:澤田仁美 下村恭子 國井裕美 永野由佳
2004年1月18日、「ラーニングナースとともに学ぶ第5回目の公開ワークショップ」が開催された。アドバイザーは在宅看護研究センター代表の村松静子、司会進行はラーニングスタッフの永野由佳で進められた。
■素敵な会場■ 今回の会場は早稲田奉仕園スコットホール。ここは歴史的建造物で、レンガ造りの落ち着きのある素敵な建物だった。( 教会が同じ建物内にあり、土曜日だったため、結婚式が2組、なんと花嫁さんにもお会いすることができた!) ■企画について■ 今回のワークショップは、私たちラーニングナース一人一人が、これまでのワークショップの反省を踏まえ、また私たちのワークショップのありかたを何度も話し合い、自分たちの学習ニーズ・参加者のニーズ・社会/看護の動向・自分たちの売りを考えに考えて企画立案をし、広報活動を行い、前日まで村松ほかアドバイザーにアドバイスをもらいながら当日を迎えた。 ■今回のテーマのねらい■ 私たちが病院・在宅の看護を経験する中で、患者・家族が、在宅療養したいという希望をもっていても、それを実現していくのにさまざまな困難があるという実感があった。それは「まだまだ在宅療養が知られていない」「家に帰りたいという気持ちをもっても帰れない、帰ることすら諦めてしまっている方が多いのではないか」「連携・継続看護の難しさ」などを感じていたからだ。 そこで、「病院・在宅ではどんな問題があるのだろう」「違う場にいる人たちの生の声や現状を知りたい・聞きたい」「違う場の方の声が聞けたら、もっと自分たちの役割も明確になってくるのではないか」…そんな想いがラーニングナースの中で話しあわれ、違う場にいる人たちが一堂に会し、出会いの中で学び合える場があったら、継続看護のあり方を考え実践していくヒントが得られたら…と考え、このワークショップのテーマが決まった。
■ご参加いただいたみなさん■ 病棟ナース、病院の医療相談室や連携室のナース、在宅のナース、看護大学生と、さまざまな立場の方にお集まりいただき、全体で約20名弱の会となった。
皆さんから参加希望をいただく際に、今回のテーマにおいて「学びたいこと・現在困っていること」を事前に出していただいた。 その結果、大きく分けると 1) それぞれの場での現状・壁・問題点となることを知りたい 2) それぞれの場で感じていること・考えていることを伝えたい 3) (在宅療養を支える上で)どのようなサポートが必要とされるのか、自分に何ができるのか考えたい・知り というニーズがあることがわかった。
■午前中の話し合い…・皆で現状を出し合う場に!■ 色々な場にある皆さんからさまざまな問題・疑問を感じている現状があると思われた。そこで午前中はまず、今自分たちが感じていることを出し合う・聴きあう場とすることにした。
はじめ司会者自身の緊張が参加者にも伝わったのか、固い雰囲気だったが、次第にほぐれていった。「3つの約束」のもと、20人くらいの輪だったが、徐々に自分をさらけ出したり、疑いを持たず積極的に関心を持ちながら話を聴く中で、互いの心が近づきあっていくような一体感を味わうことができた。
*午前中に話し合われた内容の一部をご紹介いたします* ■患者・家族は、必ずしも「家に帰りたい」わけではない■ 今回のテーマは「家に帰りたい患者・家族を支えていくために…」と設定したが、病院医療連携室のナースから、「かならずしも家に帰りたいという患者・家族ばかりではない」という現状の話があった。「医師が『(病院から早く)出さなきゃ、出さなきゃ』としているように感じる(病棟ナース)」という声からも病院の在院日数短縮によって、「退院させたい病院側」と「元気になってから退院したいなど迷いの中にある患者・家族」の意識の温度差が指摘された。 「退院したら戻れない、再入院できる保証は?」「何かあったらすぐに対応できるから病院のほうが安心」という思いからの不安にさいなまれている患者・家族の声も出され、患者・家族の思いと病院側の方針との間で葛藤するナースの苦悩を感じた。 ■患者・家族の想い…在宅療養のイメージがつかない■ 在宅療養をするにあたり、患者・家族が退院にあたって「在宅療養のイメージがつかない」「困っていること・不安なこともわからず、何を聴いたらいいのかもわからない」「サポートをどこでうけたらいいかわからない」「情報をどこで得たらいいのかわからない」という迷いや不安の中にある現状も話され、サポートの重要性が示唆された。
■自己決定を支える難しさ■ 「患者・家族が迷いの中にある。『治療か、在宅か』の選択で迷っている患者・家族。ナース自身の思いを押し付けるのではなく、その人が選べるようにするためのサポートに悩む(在宅)」「自分で自己選択・自己決定できる人はいいが、選べない人も多い。自分の人生がかかっていて選べない、迷う気持ちは当たり前ではないか」という声もあった。
患者が自己決定・自己選択していくにあたって、患者・家族が思いを伝えられる相手の必要性、こういう選択肢があるというアドバイスをしたり、自己決定を支えられる人の存在の重要性も話し合われた。
■思いをいわない、訴えない患者さんはどうしたらいいの?■ 自己決定し、「私はこうしたいです」と選び、表明する方は、「家に帰りたい」を支えるために医療者間が同じ方向を見ることができるのでその思いを支えることは可能になりやすいが、訴えない方はどうしたらいいの?という問いがあった。 村松から「訴えない人の中には耐えている人もいる。何かあるかなと気をつけていないといけない」「看護師の前に一人の人間として向き合い、『べき論(こうすべき)』ではなく『どう感じ取るか』が大事では」とアドバイスがあった。 ■思いは「信頼できる人に」話す■ とかく看護職だけだと偏りがち・狭くなりがちになるが、学生から患者・家族の目をもって「患者・家族はしてもらっている立場だから感謝する。だから言いたいことがあっても言えない」という意見や「具合の悪い人がいるとそれだけで全体が崩れてしまう。言えるのが普通でしょうが言葉にできない思いがある」というハッとさせられるような意見が出された。「 思いを伝えよう、話そうと思えるのは自分が信頼できる人」という言葉は、真の信頼関係を築くことの大切さと難しさを実感させられるような言葉だった。 ■継続看護/連携…同じ方向を見ることが大切■ 話し合われる中で、継続看護・連携において、「本人・家族・医療者などが同じ方向を向くこと」の重要性が話し合われた。同じ方向を向こうにも、本人・家族がどういう方向に行きたいのかわからない場合、また病院・在宅・他職種間で各々が違う方向に向いていることが往々にしてあるのではないか、という現状が浮き彫りになった。 ■番外編:ランチタイム■ 初めていらしてくださった方も多かったのですが、ランチタイムはみなさんすっかり打ち解け、ワークショップで出会った人同士でランチを楽しまれる場面を目にしました。 ■午後:グループワーク…もっと近づいていく■ このワークショップは全員参加型である。何をどうすすめていくのかも、皆で決めていった。 そこで、午前中話し合われたことをもとに、より近づいて深く話ができるようにグループワークを進めることになった。澤田・國井グループと永野・下村グループに、病棟・医療相談・在宅・学生がそれぞれ分かれて、話し合いがもたれた。
*グループワークで話し合われた内容を一部ご紹介いたします* ■輪の中心がだれか■ もちろん患者・家族だが、それが本当に成り立っているのか?という場合がある。その患者・家族を中心に、患者・家族が何を望んでいるのかを汲み取る必要があるという話がでた。
■患者・家族はどういう人に自分の想いを訴えるか■ 自分の思いを伝えられない患者・家族の方がいるが、私たちナースはどんな姿勢で向き合えばいいのだろうか。その疑問に学生が患者・家族の立場から話してくれた。 *「話せる人は自分のことをわかってくれる人」 …より身近なひと。相手がナースだから、医師だからではなく、身近な人に話す。掃除のおばさんの場合もあ *「聴いてもらえそうな人」 …自分という存在を見てくれているのがわかる。親しみがあり、眼を見て挨拶してくれる、それは時間の問題
非常に真髄をついている言葉である。看護職はとかく「聞き出そう」とがんばってしまう。まず真の人間関係・信頼関係が必要であるということを皆で再認識した。
■病院/在宅の垣根を低くしていくために■ 在宅との連携について、病院ナースの最近の体験から「訪問ナースから退院前の病院訪問を受けたのは初めてだった。また(在宅療養・そのなかでの看取りの様子の)サマリーをもらって、退院後の患者さんの様子がよくわかった。病院側ではとかく一度在宅に送ってしまうと生きているのか、どうなっているのか全然わからない…」という声を聴き、「在宅をわかってもらえない、わかっていない」という前に、伝える努力、結果を返していく努力の必要性を改めて確認した。
■会全体を通して、みんなで学んだこと、感じたこと、伝えたいこと■ グループワークを終えて、またひとつの丸い輪になり、一日を通しての学びを一人ずつ話していった。その声を一部ご紹介する。 * 身体面ばかりに目がいってしまっていた。生活面にしっかりと目を向けたい * 関わる時間の長さではないということを再認識。3つの約束の『積極的に関心を持つ』の大切さを実感。 * 「人と人」ということを再認識。自分を顧みることをやっていきたい * 病院にいると、退院後の患者のその後の様子は全くわからない。院内の連携とともに地域との連携の * 看護師として…の前に、一人の「人として」の大切さを感じた * 相手の立場にたって…ということの大切さを感じた(たとえば電話ひとつも難しい) またアドバイザーの一人である稲留からは、「病院・在宅どの立場でも看護師は何をしてくれるのかアピールしてもらわないと伝わってこない」ということや「どういうときに看護をしていると思えるか」という大切な投げかけもあった。「たとえ配膳の時にも看護は生まれる」という言葉に皆ハッとさせられた。また「患者・家族はナースをよく見ている。子供も同じく見ている。訴えられない、言えない患者の思いを汲み取ってほしい」ということなど、大切な視点が話された。 ■一日をとおして■ 違う立場の人たちが一堂に会し、互いに自分を伝え、相手の立場を聞く、「学びあう」ということのすばらしさ、出会いのすばらしさを感じた会でした。場という垣根を越えて、協働していくための努力の必要性などさまざまなことを感じさせられた会でした。
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