● 安藤 武士 Andou Takeshi | |||||
1941年、新潟県生まれ。1967年、新潟大学医学部卒業後、医師登録と同時に外科研修を開始。72年、呼吸器・心臓血管外科を専攻後、80年より、心臓血管外科部長として日本赤十字社医療センターに勤務。2001年より職域診療所所長として活躍中。 |
|||||
|
|||||
医師として、武士として
|
|||||
vol.31
|
バベルの塔 |
2008-1-25
|
|||
今日、巨大な建造物が競って建設されている。歴史的に観る。まず塔である。1889年、フランス革命100周年を記念してパリで開催された第4回万国博覧会のため建設されたエッフェル塔の高さは312.3m、当時、酷評されたが今はパリになくてはならぬ建造物となっている。1991年、エッフェル塔も含めその周辺は世界遺産に登録されている。日本では、1958年に竣工した東京にある日本電波塔が332.6mで最も高い。東京タワーである。現在も自立式鉄塔としては世界最高を誇っている。今年、デジタル放送移行に備え第2東京タワーの建設が東京都墨田区で始まる。完成は2011年で610mの高さとなる。"すみだタワー"と呼ばれると聞いている。 高層ビルで名を馳せたのは、ニューヨーク市の5番街にあるエンパンヤステートビルディングである。443mのビルで1931年に竣工された。1973年、ニュウヨークのマンハッタンにツインタワービルディングと呼ばれる528mのワールド・コンプレックスビルが完成し世界最高となった。2001年9月11日、テロの標的にされ全壊した。現在、完成しているビルでは台湾にある508mのTAIPEI101が最も高い。建設中であるがアラブ首長国連邦の首都ドバイのブルジュ・ドバイビルディングが、2007年7月、512mに達しTAIPEI101を抜いて世界最高の地位を奪った。2008年の竣工時には800m以上となる予定である。世界最高を維持したいため詳細は公表されていない。中国でも間もなく496mの上海環球金融中心が完成する。クエートでは、高さ1Km(1,000m)の超超高層ビルが計画されている。経済が活況を呈している地域に競って建てられている。 日本では横浜市にある296mのランドマークタワーが最も高い。2014年、大阪市に平成の通天閣と呼ばれる300mを超える日本一ビルが出来る予定である。 歴史上、もっとも有名な高層建造物は「バベルの塔」である。旧約聖書の創世記に登場する。大洪水の際、ユダヤ教の神エホバ(ヤハウエ)により箱舟で救われたノアの子孫は、東方をさまよいメソポタミヤ地方のチグリスユーフラテス河沿いにあるバビロニア(旧約聖書では"バベル")に住み着いた。そのころは世界中の人々は同じ言葉を使っていた。大洪水を恐れた一部の住民は、それを免れるため「天にも届くほどの煉瓦の高い塔を建設し勇名になろうと考えた。」紀元前1900年の話である。 現在の状況も似ている。台湾(508m)、上海(496m)、アメリカ(541m)、ドバイ(800m超)クエート(1.000m長:計画)、日本では横浜(296m)、東京(248m)、名古屋(247m)、大阪(300m超:計画)と財力にものを言わせ競って高層ビルを建てている。しかし、どこも地震を恐れなくてはならない地域である。建てる必要がどこにあるのであろうか。 阪神・淡路大地震では、家屋、ビルの倒壊、火災で約5500人の死者と約30万人の被災者を出したことは記憶に新しい。現在、切迫性が高いと考えられている地震は東京湾北部と茨城県南部、多摩地区といわれている。M7.3 地球の表面は10枚のプレートからできている。感ずるか否かは別にして常に地球の表面は動いている。プレートは隣接しているプレートの下に潜り込むため地震は起こると書物には記載されている。阪神・淡路大震災、中越地震、中越沖地震地では幸い高層ビルはなかったが次も高層ビルがないところに起るとは限らない。神のみぞ知るのである。人々の"うぬぼれと傲慢さ"が日本では八百万の神々の怒りを買い、日本の首都圏を"バベルの塔"ならぬ"ヒルズの塔"にしてしまいかもしれない。 1月17日は阪神・淡路大震災の慰霊祭の日である。1995(平成7年)年1月17日、午前5時46分に起きた阪神・淡路大地震を思い出しご不幸のあった方々のご冥福を祈るとともに新ためて謙虚な生活を送ることを誓い記した。
|
|||||
vol.30
|
300日問題 | 2007-5-10 | |||
明治二十九年四月二十七日制定された法律第八十九号、所謂、家族法の第四編は「親族」を規程している(最終改定:平成16年12月1日法律147号)。第四編は、第一章 総則 第二章 婚姻 第三章 親子 第四章 親権の条文からなっている。第三章 親子 第一節 実子 (嫡出の推定)に、今日、「300日問題」として騒がれている民法第七百七十二条がある。 食事は販売されているペットフードが基本である。ペットフードも固形、缶詰、また内容も色々である。野良は気に入らないと見向きもしないが、家人は"贅沢させていられない"と怒りながらも気に入りそうな餌を与えている。時には、今日は誰々の誕生日、今日は楽しいことがあったからなど理由をつけて、いかり(かつお)、きびなご、あじやまぐろなど、ご馳走している。食欲の無いときや体が弱っているとき、歯が無くなってくると、人様と同じ食事になる。冬は寒さ避けのポリの宿に食事を運んでいる。ルームサービスと称している。無論、暖房も完備している。"ほかろん"を1、2袋入れてやる。家人は"入れてあげる"と言っている。 ある日、突然、食事どきに野良がヨチヨチ歩きの子猫を従えて小生宅を訪れる。母親とその子と推定される。食事は、一組毎に一皿づづ用意する。無論、皿は瀬戸物である。母親は子が小さいときは子が食べ終わるまでそばで見守っている。子が食べ終わると親猫は食べ始める。親が年老い、食事もままならなくなるとたくましく育った子猫は年老いた親が終わるまで、自分がそうしてもらったように脇で食べ終わるまで待っている。元気なうちは競いあい食べている。 いつしか、子供だけになる。絶対と言っていいほど母親は見つからない。シングルマザーが子を育て、命が尽きる間際に静かに隠れる。猫の一生である。残された子もまた同じ道を歩む。生ませた父親猫はどのような一生を送っているのか分らない。DNA鑑定は不要であ。してもしなくても猫の一生は変わらない。子育てをしている野良が母親であると断定してよい。無論、「300日問題」も「相続問題」もない。 自然界では、皆、同じであろう。文明が発生して約6000年。人の世だけはややこしい世界になっている。 |
|||||
vol.29
|
あとの祭り 金 と 健 康 |
2007-1-30 | |||
新春の新聞に"金"の特集記事が掲載されていた。物性、歴史、相場が解説されており興味深く読んだ。ご覧になった方もおられると思う。読んでいるうちに、小生の"金"にまつわる些事を思い出した。 "金"について薀蓄を傾ける。種々の資料のパクリである(*)。金(きん)は、元素記号:Au、原子番号:79、原子量:196.9655、比重:19.32、融点:1064.43、 沸点:2807、密度:19.32、 存在度:地球3ppb、宇宙0.187、存在場所:自然金(南アフリカなど)、発見者:不明、発見年:不明、電気伝導性・展性・延性に富み、常温では固体と、関係書に記載されている。元素記号:Auはラテン語のAurm(太陽の輝き)、英語のGoldはインドヨーッパ語のGeolo(黄金)に由来する。物質に含まれる"金"の量は「金(K)」で示され、純金は24金(K)と表記される。「このペン、18K」と自慢した学生時代を思い出す。 構えて説明しなくとも、"金"の一字で"誰もがその価値は知っている。ずっしり感、黄金色の輝きは多くの人を惹きつける。しかし、日本人は銀を好む。正確には銀色を好むと言うべきかもしれない。金ぴかとか成金とか、侮蔑の意味をこめた言い方がそれを示す。小生は、ずっしり感、黄金色に憧れたことはない。負け惜しみでもあるが。話が逸れた。 人類は、約6、000年前に金を手にしたとされている。以来、採掘さた総量は約15万トン。現在の地球の埋蔵量は70、00トン、採算があうは4、200トンと言われている。年間約2,500トンのペースで産出されているが、需要は年間4,000トン、不足分は市場から回収された金でまかなわれている。新たな鉱脈が見当たらなければ,計算上、17年後に堀り尽くされる。海水1リットルには一千億分の一グラムの金が含まれており、全海洋では14、000トンの埋蔵量がある。しかし、現在の技術では採算が取れないと言われている(**)。 健康に触れる。WHOによれば, 健康とは「単に疾病や傷病がないというだけに止まらず、身体的にも、精神的にも、そしてまた社会的にも安寧な状態」と定義される。乱暴に言えば本人が健康、幸せと思えば"健康"ということになる。身体的、精神的に苦痛を覚えれば健康を損ねている病気と断定される。病気を苦痛と言い換えた方が、人は"ドキッ"とする。今、苦痛が無くとも、近い将来、"苦しむ"とわかれば誰しもがそれを避けようとする。予防に努める。予防に努めなければ苦しむ。"病気"になる。病気の"終末"は死である。 平成17年の本邦の死亡数は約106万人、ガン(32.5万人)、心臓病(17.3万人)、脳卒中(13.2万人)が3大死因である。人ゲノムが解明され「ガンの予防」も進んできているが、現在では未だ研究の域を出ていない。心臓病、脳卒中は予防できる。肥満、高血圧、高脂血症、高血糖を回避できれば、かなりの人が救われる。予防できるという理屈は容易に理解できてもこれらの回避は難しい。まして、他人の力で回避させることはなお難しい。健康管理は難しい。 本題に入る。数年前のことである。"金"を買いませんかという女性からの電話があった。以来、電話の主から、毎週、手作りの金の相場の資料が送られてきた。封を開くこともあ 送られてきた資料を腹立たしく捨てていたが、いつしか目を通すようになった。'50年頃から「年」、「月」、「週」、「日」単位で相場の変動がグラフに示されていた。中東戦争、プラザ合意で"金"が高騰していることが示されていた。「有事の金」であることを改めて知った。今が底値、値上がりは確実です。その証拠は? ついに反応してしまった。相場に全く興味がない。勧誘は無駄、おやめになった方が良いと諭した。それでも電話は続いた。根負けし、会話を持つようになった。 半年経過した。電話の主は、一度、"金"に触ってみませんか。今から、小生宅に行くという。断った。いや伺う。お断りする。押し問答が続いた。結局、小生が会社に出向くことになった。 テーブルに「地金」が置いてあった。1キログラムという。ずっしり感を味わった。「地金」を前に相場の説明を改めて受けた。"金"の価値を過ぎるほど知るようになった。これでお終いにしましょうと席を立とうとした。社員はどうして半年も話を引き伸ばしたのか、会社に来たのは興味を持ったためでないかと、激しく攻めた。お怒りになると思うがと断って、電話に付き合った理由を話した。 「興味がない人にどのようにして興味をもたせるか」、それを知りたくて会話を持ち続けた。それだけですと答えた。社員は怒った。無駄な時間を費やさせてと。上司と思われる人が挨拶にきた。部下は営業の研修中で小生が初めての客である。良い経験になったと思う。上司は失礼を侘びた。さらに、部下の営業活動をどのように評価されたか率直な意見をお聞かせいただきたいと問われた。 金の相場について十分な知識を得た。しかし、相場には関心はない。当初は、「うるさい」と思ったが、小生の係わっていることと同じことに気が付いた。なんともないと思っている人に、「血圧が高い、塩分を控えなさい、タバコを止めなさい、肥満を解消しなさい、運動しなさい」と言っても"はい、はい"と言うだけである。時には、"ほっておいてくれ、構わないでくれ"と声を荒立てる人もいる。その人のためにと思っても、興味がなければ関心がなければ何をいっても無駄である。嫌われるだけである。小生に、金の相場をどのようにして興味をもたせるか、それに"興味"を持ったと説明した。上司は、営業では"興味"を持たせることが最も難しい、そのノウハウを持てば卒業です。社員は勉強になったと思うと礼を述べた。 病める人を救う医療の困難さは知っている。しかし、健康管理は健康を害していると自覚をしていない人に、健康を維持することに興味を持たせることから始めなければならない。困難の質は異なるが、病人に接するよりはるかに難しい。人の"心"を動かさなければならないのだから。助けを求めている医療では経験されないことである。 嫌がられても怒鳴られても「儲かりますよ」と愚直に言い続けた件の社員に軍配が上がったようである。なにしろ、全く興味を示さなかった小生に、金属としての"金"、財産としての"金"について勉強させたのである。健康管理の王道は、塩分を控えなさい、タバコを止めなさいと、嫌がられても怒鳴られても言い続けることであることを教えられた。「良いものは良い、悪いものは悪い」のである。 昨日の"金"一グラムの終値は2、474円と報道されていた。件の社員とバトルを繰り広げていた頃の2.7倍の価格になっている。健康も「あの時、・・・」と慙愧に思うことがあるのはご存知のことと思う。その時は「あとの祭り」である。 (*)ニュートンプレスグループ:完全図解 周期表. Newton 別冊. ニュートンプレス発行、東京、2007
|
|||||
|
|||||
|
|||||
|