市民の眼 尾崎 雄 Ozaki Takeshi |
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市民による市民のための医療政策をつくる人材養成講座が10月、東京で開講する。文部科学省科学技術振興調整費をもとに東京大学の医学部と先端科学技術研究センターなどが運営する「東京大学医療政策人材養成講座」(プログラムディレクター高本眞一東大医学部教授)だ。このほど開かれた第一期生募集の説明会には募集定員45人に対し120人もの希望者が詰めかけた。 国の世論調査によると、国民が重視する政策として「医療」は「収入・消費」や「雇用」を抜いてトップ。また国民の9割以上が今の医療制度に不安を持つ。団塊世代の膨大な人口が要求する医療・介護ニーズを賄う「2015年問題」は手付かずのまま。医療財政の破綻、医療事故の頻発など問題は山積しているにもかかわらず「改革の道筋」が見えない。それは、国民が医療政策を官僚に丸投げしてきたからではないか! 同講座講師になる黒川清日本学術会議会長は説明会の参加者に奮起を促した。「(納税者の中から)政策を立案し、改革を推進できる『次世代リーダー』を育成する」こと。それが講座の目的である。 受講生は医師、コメディカル、医療機関経営者、患者支援団体・NPO関係者、学生、ジャーナリストら様々な政策形成プレイヤーを迎え、医学・財政学だけでなく経済学、経営学、工学、法学、哲学など多角的な視点で医療政策の改革に取り組む。開講は社会人の参加を配慮して夜6時半から。45人が@医療実務者・政策立案者A患者支援者B医療ジャーナリストの3コースに分かれ、講義、演習、実地研修および共同研究を経て医療改革の政策提言を行う。質的には大学院・修士課程の上を狙う中身の濃いプログラムだ。 受講希望者の一人で酸素吸入をしながら大学を卒業して働いている若い女性は「インターネットによる情報アクセスによって患者のための医療を実現できる。自分もそうしてきた」と情報公開による改革を主張。また「日本の医療政策は有識者の利益に左右されてきた」との発言に対し、居合わせた広井良典千葉大教授は、問題の根は我が国の政治構造にあると答えた。政策形成の政治プロセス解明の必要性を示唆する指摘である。 虎ノ門病院の医師と名乗る中年男性が「東京大学医学部と付属病院が変わらなければ、日本の医療は変わらない」と悲観的な意見を漏らしたが、その東大が国費で「患者中心の医療」を目指す政策講座を持つことは画期的。これが「医療改革のための小さな一歩」(黒川氏)になることを期待したい。「独立行政法人になったからこそ東大がこういうプロジェクトができるようになった」という別の講師の発言が印象的だった。 尾崎 雄(老・病・死を考える会世話人)
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vol. 1 草の根福祉の担い手
マドンナたちの後継者は? ●
vol. 4 ホスピス・ケアはアジアでも「在宅」の波? ●
vol.10 訪問看護婦、ホスピスナースは「ハードボイルド」だ!?
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