市民の眼       
 尾崎 雄 Ozaki Takeshi


 vol.34   言葉遣いについて――リハビリに通い始めて気づいたこと   2005-9-12

頚椎と背骨の変形が見つかり近所のリハビリ医院に通い始めた。電気マッサージと首の牽引をして貰うためである。そこで気がついたことが一つ。医療関係者の言葉遣いである。患者を「〇〇様」と言葉の上では「お客様」扱いする医療機関が増え、ようやく医療もサービス業の自覚が根付き始めたようだ、と思ったら必ずそうではなかった。

病院や診療所の受付や支払いの窓口では「様」は定着してきた。だが、同じ医療機関の中でも場所が変わると旧態依然。「…シテネ」「〇〇しましょうね」といった赤ちゃん言葉で患者に呼びかけるのである。医療批判が高まる前の医療機関や措置時代の高齢者ケア施設は患者や利用者に対して幼稚園児や赤ちゃんのように呼びかけることは普通だった。

その後、医療機関に対する批判の高まりと一部医療関係者の改革意識によって「〇〇様」が普及した。福祉施設でも介護保険の実施を機に、「してやる介護」から「利用して頂くケア」と意識改革が進んだ。いまどき利用者を「おばあちゃん」「おじいさん」扱いする施設はないだろう、と思っていたら、さにあらず。私が通う医院のリハビリ職員は、誰彼かまわず赤ちゃん言葉で呼びかける。初日は、たまたま運悪くダメ職員に当たったのかもしれないとさほど気にはしなかった。ところが、通い始めて驚いた。毎回、「尾崎サマ」と呼ばれてリハビリ室に入ると職員から赤ちゃん言葉で話しかけられたり指示されたりするのである。

私は63歳。あと2年で介護保険を利用できる「高齢者」になる。還暦過ぎれば老人、と言われれば、反論の余地はない。とはいえ、赤ちゃん言葉で話しかけられれば不愉快だ。「言葉遣いに気を受けたまえ」と注意しようと思いつつ、「いい年をして大人気ないか」と我慢してきた。

そのうち、こう思うようになった。同じリハビリ医院で、大人しく赤ちゃん呼ばわりされている他のお年寄りたちも私と同じ思いをかこっているのではないか。杖をついて来る方もいるが、ほとんどの患者さんはお年寄りでも1人で通院してくる。アルツハイマー病や認知症らしき人は見当たらない。百歩譲って認知症だとしても赤ちゃん言葉は適当ではない。大袈裟に言えば人間としての尊厳をないがしろにする人権侵害である。いつかタイミングを見計らって院長に注意しようと考えている。

日本の医療はどこかおかしい。保険財政がどうの、医療制度に問題があるとか、難しい議論はさておき、医療機関も医療従事者も普通の常識や人間としての感性に乏しいのだ。「患者様」に対して無意識に「赤ちゃん言葉」で呼びかけるリハビリ医院に通う私はそう考えている。


(9月9日、老・病・死を考える会世話人 尾崎 雄)


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