起業家ナースのつぶやき    村松 静子 Muramatsu Seiko


 
vol. 15
  本当にほしいサービスができないわけ
2002-8-03
 
 

      おかしなことが多すぎる

先日、ユニークな発想で医業に取り組んでいる女医の伊藤真美先生と出会う機会を得、その際1冊のご著書をいただいた。そのタイトルは『しっかりしてよ! 介護保険』
2日ほど経って、夜の9時過ぎから読み始めた私は、開業当初の自分の体験とあまりに類似している先生の体験に釘付けとなり、一気に読みきってしまった。その間の私は、気がつくと、ニヤッとしたり、同調してうなずいたり、あきれて声を出して笑ったりしていた。読書を苦手とする私にとってはめずらしいことである。ちなみに、私が大いに反応した項目と、そこに反応した私のはらの内は次のようであった。

   第1章 福祉と医療のあいだの高い壁
        やるなら「定款変更が必要です」          
        お役所のルールがじゃまをする         
        福祉と医療は1つになれる?         
         だれのための制度
    〜声
     「そうなんですよ。先生のおっしゃるとおりですよ。私も同じように思いました。同じように
      腹立たしくなりました。前例がないから許可できないというルールは、心ある行動をつ
     ぶすんですよね。私も何度やめようと思ったかわかりません。でも、やっちゃいましたけ
      れど。」  
       
   第2章  介護のランク付けなんていらない
         介護保険、こんなんでだいじょうぶ?
          調査員の前では背筋を伸ばすお年寄り
         患者の日常を知らない主治医
         温情で判定をかさ上げ?
         「少しでも重く」という奇妙な配慮
         重く認定されやすいテクニック
         だれにも"いい顔"をしようとする制度
         いくらほしくても"ないサービスはない"
    〜声
     「現実、そうらしいですね。民間企業だから行っている行為というのではなく、広く一般
      的にやっちゃっているらしいのが判定のかさ上げや悪知恵の提供。まじめに考え、まじ
      めに取り組んでいる人や組織はどうなるのでしょう。あきれて話しになりません。」

   第3章  ケアマネジャーは介護保険のかなめ 
        事業所所属では中立でいられない
        ケアマネジャーが事業所の営業マンに
        きめが細かいほど経営は苦しい
    〜声
     「そうです。ケアマネジャーは事業所所属が条件なら、立場上、中立ではいられません。
      営業マンにならざるを得ないでしょう。 でも、それでは困るんですよ。大事な役割のは
      ずですから。」

   第4章  なんてめんどうなお役所通い
        添付書類のおそるべき多さ!
        休み返上で申請手続きに奔走
        運営規定は官報からの引き写し
        シロウトだからわかる申請手続きのムダ
        せっかくのオリジナル案は「保留」
    〜声
     「そうなんですよ、おかしなことです。オリジナル案は、前例がないから保留となる。もう
      やっていられませんよね。」

   第5章 病院から家へ  
        在宅医療はもうかるという風潮
        南房総に花の谷クリニック開業
        介護がなければ医療はない
    〜声
     「もう、悲しくなってしまいます。私たちはいったい何だったのでしょう。」

   第6章 介護保険は1からつくり直したほうがいい 
        理想を忘れて生き残り策ばかり
    〜声
     「もう、考えたくありません。先生、お互いにオリジナル案を進めるしかありませんね。」

伊藤真美(花の谷クリニック院長)著:「しっかりしてよ! 介護保険」草思社

この1冊の中に綴られた先生の開業時の苦悩は、私のそれと大いに似通っていた。

 

 
vol. 14
  看護の自立をはばむもの その4-2
 2002-7-10
 
 

1986年、「これからはシルバー産業の時代になる。儲かるはず」とばかりナースやヘルパーを雇い、大風呂敷を広げる大企業が続出する中で、私にもできることがあった。どこにも負けないヘルパーを育成すること。『在宅看護ヘルパー育成プログラム』は、そんな中で誕生したのだった。看護一筋の私に、かすかに芽生え始めたビジネス感覚である。

ある日、 私たちの小さな事務所に‘日本における在宅看護はどうあるべきか’を研究しているという大手企業グループの担当男性3人がやってきた。その頃は、企業という言葉を聞くだけで背筋が寒くなる私だったが、その主旨には賛同した。「今最も感じているのは、私たちといっしょに動いてくれるヘルパーさんがほしいということなんです。在宅看護を充実させていくのはナースだけでは無理」という私に、「あなたたちと動けるそのヘルパーさんを教育してみませんか」と真顔で言う。そんなやり取りの中で、「私たちは慈善事業をしているわけではない。収入が得られないことはやりません」ズバリと言われたその言葉に、‘必要な時に’‘必要な看護を’‘必要なだけ’行う看護のボランティアには限界を感じていた私は思わずうなずいた。自分たちのことは自分たちで保障していく。事業は採算が合ってはじめて充実でき、拡大できる。事業を拡大すると、助かる人の数も幅も増える。  
それからの私は、『在宅看護ヘルパー育成研修プログラム』作成に、ありったけの情熱を傾けて取り組んだ。生きた教育をめざして没頭した。
「基礎看護学概論T」「介護哲学」「在宅看護ヘルパー論」「リハビリテーション基礎理論」「看護生理学概論」
「病態・解剖学概論」「患者・家族心理」「相談心理」「人間関係論」「コミュニケーション理論」「住居環境論」「職業倫理」「健康管理論」「病人食栄養」「在宅福祉事業」「カウンセリング」
しめて計16科目200時間。

さらに実習についても、在宅療養の実態を感じ取ろうという「基礎実習T」訪問看護の現状を知り、それを少し手伝ってみようという「基礎実習U」、対象を受け持って実際に役務を担ってみようという「総合実習」、計100時間。
また、宿泊研修として行った「演習T」では、レクリエーションを通して職業意識を高め、「演習U」では問題解決方法とカウンセリングのあり方を理解することを目標とし、計40時間。
“在宅介護ヘルパー”ではない“在宅看護ヘルパー”という名称にこだわりながら進む私の活動は、明らかに看護の自立の方向へ向かっていた。

 

 
vol. 13
  開業ナースがゆく その3
2002-5-12
 
 

この3月、日本看護協会出版会から1冊の本が発行された。

「その時は家で 開業ナースがゆく」

この書が誕生する裏には感謝や苦悩が絡んださまざまなドラマがあった。私にとってとても重い1冊になっている。

今から数年前のこと、私は当時日本看護協会出版会に所属していた塩野貴子さんに出会う。一見目立たないようでいて、実は大きな人物であった。ハッキリした語り口調、大声で笑うしぐさ、必要な時の腰の低さ、嘘をつかない自信に溢れた目、その1つ1つの行動には意味があり説得力があった。
その後、私はその魅力に惹かれていくことになる。
彼女は私に執筆を勧めてくれた。毎年届けられる書中見舞いと年賀状に記された一言「お待ちしております」。何度か足を運んでもくれた。ところが、昨年の年賀状は違っていた。

「お原稿は未だにいただけないでおりますが、実績をみせていただいて満足することに致します。4月に定年を迎えます。」

私の心を大きく揺さぶり、執筆を決心させた一節である。

それからの私は動き出した。
日中は新組織の構築に駆け回り、早朝と夜間は、これまでの思いを精一杯込めて綴った。
彼女がその編集を託したのは若きエース岡本祐子さんであった。

「塩野のアドバイスを活かして、普段見られない先生の一面も出させていただけたらと思います。全部を通して最低5回は読み返します」

その言葉以上に、惜しむことなく行き来する。私はその真剣な眼差しと作業の緻密さに引き込まれ導かれて行った。

昨年の9月、決定したタイトルは「在宅死を看とる」

しかし毛筆で記されたそれは、その後まもなく幻となった。
十数年間ともに歩んできた稲留佳子代表付が、毛筆で注ぎ込んでくれた真心は、今、タイトルを超えてしみ込んでいる。

そして、永六輔さんの優しさが強力な後押しとなって、温もりのあるタイトルに変身して誕生した。

「その時は家で 開業ナースがゆく」

 


vol. 1〜3  「心」を思う その1・その2・その3

vol. 4〜6   看護の自立をはばむもの その1・その2・その3

vol. 7〜9  この時期になると浮かんでくるあの光景 その1・その2 私は言いたい、今だから言える

vol. 10〜12 看護の自立をはばむもの その4ー  開業ナースがゆく その1・その2

vol.16〜18 点滴生活雑感 ともに創る幸せ 看護の自立をはばむものその5

vol.19〜21 ともに創る幸せ2 ともに創る幸せ3 ともに創る幸せ4

vol.22〜24 ラーニングナースを位置づける その1なぜ必要か その2応援団はいる
 ナースの私が抱く疑問〜1.痰の吸引

vol.25〜27   ナースの私が抱く疑問〜2 静脈注射 素敵なエッセイの贈り物 疑問は疑問、「今の時代って?」

vol.28〜30  看護師の資格の意味を問う  感受性を揺さぶる学習環境が必要なのでは?  ラーニングナース制

●vol.31〜33 40年の歴史をもつ企業内大学老舗『ハンバーガー大学』 
介護保険が抱える問題〜看護にこだわる開業ナースの視点から  恩師、國分アイ先生


●vol.34〜36 國分アイ先生の遺志を継ぐ 安比高原の女(ひと) 介護保険制度の次の手は介護予防?〜今、私が思うこと

●vol.37再び「心」を思う その1vol.38 在宅看護研究センター20回設立記念日を迎えてvol.39「医療行為」、そこに潜む「矛盾点」

●vol.40  スタッフと共に追求する看護の価値:その1 vol.41スタッフと共に追求する看護の価値:その2 
vol42.「在宅医療支援展示室」の誕生、その裏に潜む願い

 

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