医療事故事件が世間を騒がせている。わが国では、医療事故を起こした医師の処分はどうなっているのだろうか。医師法7条2項に基づき「罰金刑以上の刑に処せられた者」「医事に関し犯罪又は不正の行為があった者」または「医師としての品位を損するような行為」をした者は行政処分を受けることになっている。医道審議会の答申を受けて厚生労働大臣が医業停止と免許取り消しという行政処分を行ってきた。処分件数は平成15年までは年間数件だったが、16年には14件となり16、18年も10件を超えている。このため国は平成18年6月、医師法改正により、処分内容に戒告を新たに設けるなど医療の質の維持と安全向上に努める姿勢を示した。
問題は医道審の構成メンバーとそのプロセスである。医道審の委員11人の顔ぶれは医師会、歯科医師会の会長、大学教授、病院長、学識経験者だが、
“悪い医師”の被害をこうむる一般市民は含まれていない。それに近い委員としてはジャーナリストが一人いるだけだ。東大・医療政策人材養成講座の政策提言グループが行った調査でも厚生労働省は、患者側代表を加える意向を示さなかった。このようにして行われる医師処分案を厚生労働大臣はそのまま実施してきた。医道審は、民意を反映し難いいびつな委員構成で公正な処分案を答申できるのだろうか。これに比べるとイギリスの医師処分制度は進んでいる。
吉田謙一東大・大学院教授によれば、イギリスで医師の処分を行うのは英国医事審議会(General Medical Council、略称GMC)。もともと「患者を傷つける医師から公衆を守る」ために設立された医師の自主管理団体である。医師の資格審査、登録管理、苦情対応、資格処分、再教育のほか医学部のカリキュラム策定などにも携わる。医道審議会は厚生労働省の付属機関のようなものだが、GMCは医師の会費などで運営するれっきとした民間団体である。
注目すべき点はGMCの審議員の構成だ。審議員35人のうち医師21人に対し、一般人が14人と3分の1以上を占める。一般人は公募などで選ばれ一定の訓練を受けて「陪審員的に専門家と調査、審議に参加し、透明性を確保」する。
医師の処分はGood Medical Practiceと呼ぶ基準に則って実施される。現代英国版ヒポクラテスの誓いとも言うべき内容で患者優先の思想が太く貫かれている。筆頭項目は「患者のケアを最優先しなさい」。次いで「全ての患者を思慮深く診療しなさい」、3番目は「患者の尊厳と秘密を守りなさい」などと14項目うち9項目が患者の優先・尊重を謳っている。GMCの患者優先主義は、患者死亡事故の反省に立って行われた改革の成果。わが国においても患者の死亡事件が相次いでいるが、医療界では改革よりも訴訟反対的な感情論が先行しているような印象を受けるのだが。
AID(老・病・死を考える会)世話人 尾崎 雄
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