市民の眼 尾崎 雄 Ozaki Takeshi |
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vol.42 |
もの盗られ妄想を抱いてしまったわたし |
2007-4-23
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F市にある脳神経外科クリニックに入院して数日たったときのことである。退院時の支払いに充てる10万円を入れた封筒がない! 病室内を幾ら探しても見つからない。もしかしたら掃除のおじさんが持って行ってしまったのか。私の病室は個人部屋で、毎朝、食事が終わったあと掃除のおじさんが屑籠のごみを捨てて、床を拭いてくれる。お恥ずかしいことだが、新聞を買いに外出している間に、そのおじさんが、できごころで……とんでもない疑いが脳裏を過ぎった。 <MRI検査によって入院を勧められて> 治療は毎日1回鼻の洗浄および午前と午後に1度づつ1時間の点滴を受けるだけである。病室の外は春爛漫。閉じこもっている手はない。治療の合間にクリニックを脱け出し、国立駅前の大学通りでお花見をしたり、駅前の書店をのぞいたり、石原慎太郎都知事が一橋大学の学生だった当時贔屓にしたという古い喫茶店で新聞を読んだりした。クリニックから国立駅周辺まで徒歩35分とあってスポーツ自転車を買い、ペダルを踏んで何度も大学通りや桜通りを走った。まことに病人らしからぬ入院患者である。 <認知症老人の心境が分かった?> 今回の入院によって、どれだけ脳梗塞・脳血栓症の再発防止と進行緩和に対する治療効果が上がったのか、詳しいことはもう一度検査をうけてみないとわからないが、まもなく65歳になる自らの老化が予想以上に進んでいることは事実である。もう一つの収穫は、認知症老人の心境とはどんなものか、ある程度分かったことである。これは得がたい貴重な体験であった。65歳は、まさに老い支度に取り掛かる季節なのである。 尾崎 雄(老・病・死を考える会世話人)
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vol.41 | 年寄りの特権 古典「老子」の味わい |
2007-1-19
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年を取ると学校の教科書に載っていた古典の一節が懐かしくなる。若い頃はつまらなかった文章やフレーズがそれなりに解釈することができたり、共感できたり、また新たな意味を持ったりしてくるからだ。年寄りの特権である。 その特権で中国の古典「老子」を読むと現代日本の正体が見えてくる。第五十七章には「夫天下多忌諱、而民弥貧。民多利器、国家滋昏。民多智慧、邪事滋起。法令滋彰、盗賊多有」という文章がある。 以下の解釈は金谷治著『老子』(講談社学術文庫)からの引用だ。 「そもそも、世界じゅうに煩わしい禁令が多くなると、人民は自由な仕事を妨げられていよいよ貧しくなる。そこで人民のあいだで便利な道具が多く使われると、国家はいよいよ混乱する。こうして人民のあいだでさかしらの知恵がふえてくると、悪事がいよいよ盛んに行われる。そこで法令がこまかく立てられると、盗賊がたくさん発生する」 民多利器、国家滋昏は「民に利器多くして、国家ますます昏(みだ)れ」と読み下すのだが、私は、こう解釈した。「利器」を「携帯電話やテレビゲーム」に、「国家」を「人間、社会」と読みかえれば、老子さまは2500年前から現代日本の乱れを予言していた、と。 一般家庭が小学生に携帯電話を与えるような国は世界中で日本だけだ。携帯電話は若者の人間関係を空疎にし、TVゲームなどIT遊具がもたらすバーチャルリアリティは子供たちの理性の発達を妨げていることは多くの研究によって明らかにされつつある。いじめ、虐待、殺人や自殺の原因はここにある。発達障害の根源には過剰な「民多利器」が存在する。 では、なぜ「民多利器」が過剰になったのか? これも「老子」は教えてくれる。「足るを知る」ことを忘れてしまったからだ。第三十三章は、知足者富(足るを知る者は富む)と説く。そのこころは「満足することを知るのが、ほんとうの豊かさである」ということ。 欲望を拡大再生産する産業社会のメカニズムに組み込まれた私たちは「足るを知る」ことなしに欲望の泥沼から脱することはできない。商品やサービスに対する無限の欲望から解脱することなしに心の安定は得られない。人間の原罪とはこのことをさすのだろう。 知足不恥辱、知止不殆。「老子」第四十四章のエッセンスはこれである。「まことの満足を知るものは、屈辱をうけてわが身を汚すようなことをまぬがれ、適切なところで止まることを知るものは、わが身を危険にさらすようなことになるのをまぬがれる」 (尾崎 雄=老・病・死を考える会世話人)
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vol.40 |
いよいよ福祉の本丸にも改革のメス |
2006-10-17 | |||
去る8月11日、一冊の報告書が発表された。社会福祉法人経営研究会編『社会福祉法人の現状と課題』(125頁)だ。サブタイトルは「新たな時代における福祉経営の確立に向けての基礎作業」である。全国紙や全国テレビネットワークは、なぜか、この報告書ほとんど取り上げなかったが、この報告書はこれからの社会福祉事業のあり方を根本から変える極めて重要なメッセージが盛り込まれている。 <合併を促し、「質の低い法人・経営者」の退出を誘導> <新規法人設立にストップ? 年度内に制度見直しを目指す> (尾崎 雄=老・病・死を考える会世話人)
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